笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

愛らしく、美しく…

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真岡鐡道 益子~七井    2014年8月撮影


中学1~2年の頃、家の本棚に少年朝日年鑑という雑誌が並んでいた。
恐らく社会の勉強のためにと父親が買っておいてくれたのだろうその本は全く僕の興味に触れず、ほとんど新品の状態でそこにあった。
何気に手に取りページをめくっていると、蒸気現役時代の日豊本線と高森線の特集が目に飛び込んできた。
黄昏時に煙を薄く棚引かせシルエットとなった門デフのC57が日向杉を眼下に鉄橋を駆け抜ける…
菜の花畑を前景に草深い貧弱な線路をC12が短い客車を従え健気に走る…。

中でも大量のススキが両脇に茂る線路や古びた駅舎、
雄大な阿蘇にあって且つ素朴な高森線の四季の風景をコトコト走るC12の姿は僕の琴線に触れ、
それまで絶対的な存在だったD51やC58が一気に吹き飛んだ。

「高森線を往くC12は愛らしく美しかった」

そう締めくくられた特集は未だ心に響くほどのものであった。
ちょうどその頃「一枚のきっぷから」という国鉄のCMが流れていて、それは確か夕景のシーンがあったように思う。
旅に出たくなるようなCMにシルエットの門デフC57と高森線のC12が妙に重なり、しばらく両機に夢中になっていた。

そんなことからC12はいつも心のどこかに存在する機関車だった。
あれから数十年、その時の一形式であるC12が今を走る。
阿蘇のような雄大さはないにしろ、北関東のなんの変哲もない素朴な田舎路線の豆機関車は
国鉄真岡線時代に元々走っていた形式とはいえ、今なお相応しいと思える。

益子発車の汽笛は青田を渡り、それは意外なほどに響いてきた。
線路端の花たちは地域の人たちの愛情か、少しでも小さな鉄道を盛り上げようとする気持ちを思うと
じんわり込み上げて来るものがあった。
素朴だけども温かい…そんな景色を小気味よくブラストを掲げて照れ臭そうに駆けて来る。
冷房がない客車の窓は開き、車内は汽車の煙と田舎の風が心地良いことだろう。
素朴だけれどそれが魅力の真岡鐡道。
北関東の田舎を走る汽車もまた、愛らしく美しかった。




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  1. 2017/09/22(金) 00:57:34|
  2. 真岡鐡道
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鉄道と製材所

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石北本線 美幌~緋牛内


北海道の森林面積は全道面積の70%、全国の森林面積でも約20%を占めるのだという。
かつては林業も盛んで、北見近郊でも留辺蘂、津別、置戸など貯木場に山のように原木が積まれた様子を古い写真から見ることが出来る。
しかし、林業衰退と共に製材所もその数を減らし町は寂れ、そればかりか津別や置戸は鉄道そのものが無くなってしまった。

鉄道が物流の主役だった頃は大抵の駅に荷物扱いがあったように思う。
工場へ引き込み線が延びていたり、貨物ホームがあって数輌の貨車が止まっていたり…なんて懐かしい光景だ。
製材所もその内のひとつで、丸太やチップを積まれた貨車などを見ているのも楽しいものだった。
林業も安い輸入材に押されて貨物輸送は鉄道からトラックに代わり、製材所と鉄道のある風景は昔と比べて大幅に見る機会が減ってしまった。
そこへいくと秩父鉄道の武州中川は駅の横に製材所があり、蒸気機関車と同時に見れる貴重な箇所だと思う。


北見から網走方面に向かって美幌の町に入る手前に小さな製材所がある。
武州中川のように駅構内に隣接するようなものではないにしろ、製材所から線路が見える風景はやはりどこか懐かしい。

道の法面にしゃがみ込み、いつしか雨も止んで青空が顔を出す。
丸太越しに軽やかに駆ける列車を眺むれば、北海道を支えた鉄道と林業の栄華を今に見ているよう…
そう見えたのは、山から切り出された木から香る優しい匂いのせいだったのかもしれない。




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  1. 2017/09/15(金) 14:38:02|
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初秋に香る



石北本線 美幌~緋牛内


オホーツク地方に限らず、僕は北海道では紅葉真っ盛りのシーズンよりも初秋の雰囲気が好きである。
日中はまだ暖かく秋の虫の声が聞こえ、青空の下にトンボが舞う。
勢いよく茂っていた草は枯れはじめ緑は霞む。
彩りを添えた花々も次第に数を減らし、余生幾許もないだろう蝶たちが羽を広げ陽を浴びる。
寂しげ色の匂いが辺りを包んだ風景をほとんど人通りのない道端でしゃがみ込み、いつまでも眺めているのが好きなのだ。

お盆を過ぎれば秋…、もう何回その言葉を聞いただろう。
今年はそんな秋が早く来たようだ。なんとなく、感覚的に…である。

9月に入ってから早朝の気温もぐっと下がることが多くなり、木々たちの中には色付きはじめて来たものがいる。
昨年の秋にも少し触れたと思うが

秋の森は甘い匂いがする…。

亡き友人がよく口にして、その匂いを教えてくれた。
その匂いは例年だと9月の終わり頃からと思ったのに、秋本番を迎える前からもう既にほのかに香り始めている。
そんなこともあって今年の秋は早い…と思うのだろう。

甘い香りは秋の匂い。森の匂い。
その匂いに包まれて小さな峠を列車が走り去る。
夏がなかった今年の夏。
だから紅葉は期待できないだろうと思っているのだが、さて果たしてどうだろうか。




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  1. 2017/09/11(月) 01:13:25|
  2. 石北本線
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晩夏の芳賀路に



真岡鐡道 多田羅~七井    2014年8月撮影


8月もそろそろ終わる。
そんな時に決まって思うのが楽しかった夏休みの終わりだ。

明後日から学校かぁ・・・
あ~あ、明日から学校かぁ・・・

たくさんの思い出を作ってくれた夏休み。
その終わりの切なさと現実に引き戻される何だかせっつかされたような気持ち。
社会人になってからもこの季節になるとその時の気持ちが蘇り、暑ければ暑いほど、
なにかに夢中になればなるほどその気持ちは大きくて、実体のないものに手を伸ばして引き留めたい思いに駆られる。

今から3年前の今日、僕は真岡鐡道の沿線にいた。
北関東の素朴な田舎の風景は、少年の頃の夏休みを思わずにいられない。
ギラギラの太陽、小川のせせらぎ、蝉時雨・・・
風に揺れる稲の音がさわさわと、怖いほどに沸き立つ入道雲はもくもくと・・・
そんな景色に小さなC12がよく似合う。
C11のような洗礼されたスタイルでもなく、言葉は悪いが地味で目立たず田舎臭い。
僕はそんなC12が好きで好きでたまらない。

陽炎に揺れる景色にあの頃と同じような田舎臭さを棚引かせてやって来た。
窓を開けた箱からは笑顔の子供が手を振ってくれた。
それは少年の頃の僕のようだった。

夏休みもあと僅か。
明後日から学校が始まる。
君にとって田舎の汽車はどんな夏休みの思い出になったかな・・・
暑い暑い夏の日、お父さんお母さんに連れられて楽しく過ごしたであろう今日という日を
大人になって夏の終わりを迎えた時、懐かしく思い出すきっかけに汽車がなってくれたらいいな、
と願う晩夏の芳賀路だった。




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  1. 2017/08/30(水) 03:07:50|
  2. 真岡鐡道
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お見送り

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石北本線 端野~緋牛内


色付き出した田んぼの横を通ると畔にかわいらしい頭が見えた。
?と見ればカルガモで、こんな所でカルガモ農法をやってたのかと近づくとすぐに田んぼの中に逃げてしまった。
ちょうど隣の玉ねぎ畑の脇に組み立て前のコンテナが積まれており、
そこにしばらく身を隠しそっと覗くと農道の草むらに一家が続々と出てきた。
ピヨピヨと小さな声が微かに聞こえ、親鳥と思しき一羽が雛たちの近くで見張っている。
雛を見ようと覗く僕の姿は完全に不審者だが、以前の苦い記憶からあまり無理なことは出来なかった。



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端野町端野

 
信州は中信、茅野市の外れ、八ヶ岳が目前にそびえる棚田の間を通る農道をバイクで走っていたところ、カルガモ親子が急ぎ足で道を横断していた。
あっと思って止まったのはいいのだが、一番後ろの雛がビックリして反転、親子と離れ離れになってしまった。
雛一羽がヨチヨチと懸命に逃げ、すると流れの急な農道脇の用水路に落ちてしまった。
あーっ!と慌ててバイクを降り用水路に駆け寄ると雛がすごい勢いで下流に流れていく。
なんとかしなきゃと走って追いかけ、しばらくすると草やごみを止める目的だろうか金格子に引っ掛かった。
手を伸ばしても届きそうになく、仕方なく用水路に入り半身ズブ濡れになって雛を手に包み込むようにして救った。
その雛を離れ離れになった場所に連れてくと我が子を呼ぶ親鳥の声だろうか姿は見えぬが鳴いていて、ちゃんと親元に帰れることを祈って田んぼに放した。
上空にはカラスやトンビが旋回し、親から離れた雛がはたして無事に巡り会うことが出来たのだろうか…
と、なんだか申し訳ないことをしたような気分になった。

そのことが脳裏に浮かび大っぴらな行動は出来ずに辛抱強く粘っていると、一度だけ何とか近くまで親子が来てくれた。
といっても雛は草むらに隠れてしまっていたが、愛くるしい眼を拝むことは出来た。

列車がそんな田んぼの横を眺めながら通り過ぎて往く。
列車を目で追う者、全く無視する者、首を伸ばして不思議そうに見つめる者…。
カルガモの世界にもそれぞれの表情があるものだとほのぼのした気持ちにさせられた。




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  1. 2017/08/25(金) 23:06:40|
  2. 石北本線
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プロフィール

u403tsugaru

Author:u403tsugaru
下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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