笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

雄信内にて

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宗谷本線 雄信内


雄信内の駅は宗谷本線内に残る数少なくなった木造駅舎のひとつだ。
いかにも北の果てを思わせる北海道らしく好ましい風情を持つ。
周囲は木々と雑草の中に数軒の廃墟が残るのみ、
幌延に抜ける道を、忘れた頃に車が踏切を渡る以外は鹿の鳴き声が響く。
駅の背後は森が控える住民のいない土地に、今でも現役で存在するということ自体奇跡と思えた。


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雄信内の駅に着いたのは、雪虫が舞う16時を少し回った頃だった。
夕日に染まる光景に切ないほどの旅情が込み上げる。

秋の日は釣瓶落とし、瞬く間に日が落ちた駅に途方もない静寂が訪れる。
駅を一歩出てみると、人の目ではどうすることも出来ない暗闇が不気味に口を開けて待つ中に
白熱灯がぽうっと灯る駅が不自然なほどそこにあった。


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誰ひとり来るはずもない駅の待合室から零れる灯りが虚しく感じる。
突然ドサッと鈍い音がして背後に大きな鹿が薮から現れ、機材などそっちのけで一目散に車の中に逃げ込んだ。

時折ガサッ、パキッと野性動物の気配がする孤独感と恐怖感に押し潰されそうになりながら耐えること2時間余り。
列車の音が遠くに響くと、闇を切り裂く…とはこういうことを言うのだろうヘッドライトが近付き、
数人の乗客を乗せた列車が人のいない土地の駅に律儀に停車する。
長年極寒の地で風雪に耐えて時代を見て来た木造駅舎に列車がいるという風景…。
あれほどの孤独感に苛まれていたのに、たったそれだけのことで嘘のように僕の心は熱く震えた。


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列車が闇の向こうに瞬く終着稚内へゆっくりと発車する。
出発信号機が青から赤に切り替わる。
赤いテールランプが遠ざかり、駅は再びいいようのない静寂に包まれた。

見えない敵にいつ襲われるかのような不安と恐怖を感じながら聞こえた列車の音はなんと頼もしいものか…。
僕はこの日ほど人の気配を運んでくれる鉄道が、
これほどまでにありがたいものだと思ったのは初めてのことだった。




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  1. 2017/10/16(月) 01:47:53|
  2. 宗谷本線
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耽る



宗谷本線 恩根内~紋穂内


「ほれ、あの向こうにサイロが見えるな。
あそこがワシん家じゃ。いつでも訪ねて来なさい。」

C55が牽く旭川発稚内行き321列車の車中を記事にした、ある鉄道雑誌を食い入るように見ていた学生時代ーー。

「気を付けて行きなさいよ。訪ねて来なさいよ。」
原野の駅に一人降り、しわがれた声で手を振るホームを321列車は短い汽笛を残して後にした。

…そんなような一文だったと思う。
その老人が降りた駅はどの駅だったか記憶は定かでないが、遠くサイロが望まれる風景にそんなことを思い出していた。

駅を降りた老人はどれほどの道程を歩いて帰ったのだろう。
旅の若者が訪ねてくれることを願いながら、向こうに流れる汽車の煙をどんな思いで見ていたのだろう。
孫に囲まれ、牛の世話をし、日々どんな暮らしをしていたのかと想像は尽きない。


忙しく流れる白い雲を縫って日差しに浮かんだ見張るような景色は
いつしか灰色の空に覆われて少し寂しげな色に変わっていた。

かつて北の大地に咆哮した蒸気機関車の面影は遠く、存続すら危ぶまれるようになった鉄路を汽車は往く…。
時代の流れに揺れる光景を、その老人の魂は今をどのような想いでサイロ越しから見送っていたのか、と
秋色の景色の中で物想いに耽りながら眺めていた。




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  1. 2017/10/12(木) 00:30:34|
  2. 宗谷本線
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天塩川のある情景

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宗谷本線 紋穂内~恩根内


天塩川…
その響きに最果て旅情を掻き立てる名の川は、天塩岳を源に岩尾別から名寄盆地を北上し
天塩平野を経て日本海に至る道内2位の長さを誇る川である。

その流れは名寄地方で稲作の水源となり、美深以北は酪農を営む大地を形成する。
音威子府から渓谷を下り、三日月湖が多く残る幌延辺りで西に向きを変え、
次には天塩町で海岸線を南下してようやく日本海へと注がれる。
コンクリートなどで護岸された箇所も少なく、
川幅も広くてゆったりと流れる川の眺めは随所に道北らしさを感じることが出来るだろう。
詩情溢れる景観は旅する人の期待を裏切ることはないはずだ。

そんな川が織り成す道北の景色を見ながら特急宗谷の青い身体が駆けて行く。
遠くサハリンを望む旅路の果てへはまだしばし、2時間10分ほどの道程だ。
色付く山々、広がる牧草地、たゆまぬ流れの天塩川…。
大いなる景色に鉄路を叩く足音が山影から現れ、そして消えていった。




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  1. 2017/10/08(日) 03:40:42|
  2. 宗谷本線
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象徴の影に

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宗谷本線 音威子府


若かりし頃、東京での職場である管理責任者が転勤して来た時のこと…。
東京ドームでプロ野球観戦や、昼飯にもよく連れて行ってくれたべらんめぇ口調の、公私ともに大変お世話になった方がいた。
ある日休憩中にその上司がやって来て、そこに職場に届けられた荷物の片隅にあった音威子府という文字を指し
「おい、おめぇこれなんて読むか知ってるか?」と聞く。
「おといねっぷがどうかしましたか?」というと
「なんだ知ってたのか、面白くねぇ」と笑いながら出て行った。
上司からすれば、なんだ読めねぇのかとからかうつもりだったのだろうが
まさか僕が子供時分から音威子府に凍てついたキューロクやC55の写真を見て知っていたとは知る由もなかったろう。

その音威子府の写真には、旭川から厳しい北の寒風を突き抜けて全身凍らせたC55が客車から切り離され
少し先で給水を受けている写真だった。
ホームでは「NHK推奨」「日本一」などと書かれた暖簾が下がる立ち食いそば屋に旅人が群がる。
そば屋からも、ホームでそばをすする人々や丼からも白い息や湯気が立ち込め、
その先で整備を受けるC55からも全身蒸気に覆われ、それはまさしく活気ある駅の光景だった。

そのそば屋さんはホームから駅舎の中に移転して現在でも老夫婦のお二人が切り盛りしている。
ちょうどお昼時だったこともあり、意外なほど後から次々とお客さんがやって来ていた。

かつては天北線や羽幌線の連絡駅でもあり鉄道の要所であった音威子府。
両線が廃線になってから久しく経つ。
今では構内の線路もかなり撤去され、当時のような活気は微塵にも感じられなくなってしまったが
それでも広い構内と立派な木造の跨線橋は健在だ。
跨線橋の木目には、在りし日のC55やキューロクたちの息吹きが染み込まれているだろう。
この駅の象徴でもあるかのような、重厚且つ威風堂々とした跨線橋に敬意を示すように特急サロベツ4号が静々と入線する。
往時より寂しくなったとはいえ、見ていて楽しくなるような駅構内を秋の短い日差しが長い影を作り
僕の頭の中で蒸気たちの鼓動と今見ている光景が重なった…。




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  1. 2017/10/03(火) 17:40:07|
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秋の名寄地方で

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宗谷本線 北星~日進


宗谷本線を北上し、名寄を過ぎると辺りの雰囲気が変わってくる。
さほど大きくなくてもポツポツ続いていたそれまでの街は更に小さな規模となって街との間隔も広がる。
列車本数もぐっと減り、畑はあっても人の気配が感じられない。
旭川郊外から続いていた田園風景もそろそろ北限に迫ると、蕎麦や牧草地、更には熊笹の茂る原野へと移り
否が応でも最果て感が強くなる。
標高の低い山並みであっても一歩踏み込めば森は深く、人間社会が入り込む余地はない。
人が暮らす里と自然の境界線を往くのが宗谷本線というのが僕の印象だ。

オホーツク海側の雄武町と名寄の境に位置するピヤシリ山という山がある。
鬱蒼とした雄武側と打って変わり、名寄側は開放的な明るさのある爽快な眺めが目に染み入るように飛び込んでくる。
道を下れば山奥にいた緊張感は解け、人の暮らす匂いに毎度のようにホッとする。
駅は乗降場といっても差し支えない簡素なものでも時間になればきちんと列車がやって来る…そんな当たり前の風景が何故だか嬉しい。

黄金色の絨毯の傍らで、エンマコオロギやキリギリスといった内地でよく聞かれる秋の虫が数多く鳴く。
どことなく北東北に似ている風景に、窓の外に稲穂が望める線路沿いの小さな家。
外壁はリフォームされているものの北海道でよく見られる古い型の家だ。
この好ましい家の存在のおかげで北海道であることを意識することが出来るが、北海道的でありながら内地的…と
名寄地方に感じるのはこんな景色のせいかな…なんて思いながら、駅に静かに進入する列車を迎えた。




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  1. 2017/09/30(土) 14:55:42|
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Author:u403tsugaru
下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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