笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

去りゆく姿

PB192971-10fc (4)

山口線 篠目~仁保


もう十年ほど前、信州に住む母方の祖母が他界した。
享年94歳、胃癌だった。
僕が行くといつも見えなくなるまで手を振って見送ってくれる、そんな祖母だった。
最後の年、弱った身体を起こし外に出て、これがおれとおめぇの今生の別れだと力の限り僕の手を握った。
その時もいつものようにずっと手を振り、千曲川の支流を渡って姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
祖母は姿が見えなくなってから必ず最後に一礼をしていた、とのことを葬儀の時に初めて知った。
去りゆく僕の姿を見送る祖母の想いとはどんなものだったのだろう。


汽車が駅を発つ。
激しいドレンに身を包み、濡れた鉄路を満身の力をもって険しい峠に立ち向かう。
その姿は逞しくもどこか悲壮的でもあり、それは蒸気機関車が牽く列車ならではの光景。

蒸気機関車に心を奪われたのは、なにも機械的なカッコよさだけでもなければ猛然と煙を吹き上げる勇ましさだけでもない。
今の時代に流行らないかもしれないが、なにも語らず、ただ黙って去り往く者の背中を見るような
切なげで旅情的で、見送る者が涙してしまうような姿もそのひとつだと思う。
カマの様子が写ってなくたっていい。
彼が発する音と残り香があれば僕には十分だ。

次第に早くなる息遣い、それを追うように赤い尾灯が去っていく。
旅立つ汽車に人が想いを寄せて涙するのは、見送る者の胸に往来する亡き祖母の想いときっと似ているのだろう。




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  1. 2016/12/29(木) 21:43:38|
  2. 山口線
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汽・婦人

PB192971-10fc (3)

山口線 篠目駅


篠目駅に着くと、既にSLやまぐち号は峠に向けて出発準備をしていた。
雨は止んでいたが濡れた峠越えはさぞや厳しいに違いない。
缶圧を上げ、静かなる闘志を燃やす1号機。
その姿を改札口でじっと見つめるご婦人がいた。





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  1. 2016/12/25(日) 01:56:33|
  2. 山口線
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友と蒸気機関車と

先の只見線の記事で紹介させて頂いた「蒸映」を撮影・制作している友人とその相方であるもう一人の友人。
旅の当日、その二人も山口入りをすることはかねてから知っていたが、それぞれの予定が異なることから現地で会えたらいいね・・・程度の感じであった。
ただ、夜はどこかで一杯やろうということにはなっていた。
返しはどこで撮る?と電話で話すも、撮影区間は同じでも僕は僕でどうしても立ちたい場所があったので再会は夜の楽しみにとっておいた。

山口線に蒸気機関車が復活した昭和54年。
秋には早速乗り鉄で訪れ、撮影はその翌年に山口入りしている。
その時立ったのが鷲原だった。
津和野を発車したSLやまぐち号は津和野盆地の山腹を縫うようにしながら勾配を駆け登って来る。
煙が、汽笛が、ドラフトが、力闘する蒸気機関車の物語が長く望め、あの時の感動を36年振りに味わいたかった。

線路端で当時のことを思い出しながら懐かしい鷲原に立っていると僕の名前を呼ぶ友人たちの声が聞こえた。
津和野でスナップをしていたという友人たちは当初本門前かなと言っていたが、鷲原も捨てがたいと来てくれたようだった。
動画を撮る友人と写真を撮る友人三人で撮影するのは二年前の真岡鐵道以来で、特に写真を撮る友人とはその時以来の再会となり本当に嬉しいものだった。
撮影準備に取り掛かる二人それぞれの仕草を見ながら、数年前に彼らと出会えた「縁」を蒸気機関車好きにちなんで「煙」として
こうして宮城と北海道からはるばる津和野路で再会できた喜びは感慨一入であった。
彼らはプロでも食っていけるとその筋の方たちから声が掛かっているが、羨ましく思える話を二人とも拒む。
そんなハイレベルな撮影技術を持っている彼らが、素人丸出しの恥ずかしい写真しか撮れない僕のような者と行動を共にしてくれることに、いつも深い感謝の気持ちが込み上げる。

津和野発車の汽笛が鳴る。
三人一様に子供のような顔になる。
36年前のあの時のようにシゴナナの1号機が奮闘する様子が見え、背中に電流が走った。
いかん涙が出そうだ、しっかり見なければ、しっかり聞かなければ、しっかり感じなければと彼の姿に集中する。
その奮闘ぶりに、きっとそれぞれの撮影地で皆満足しているだろう順番が刻一刻とやって来る。
高鳴る心臓、震える指先、沸騰する血液。
山岳路線を苦手とする急客機を見事な技術で運転をこなす機関士さんたちの腕前か、1号機は早いピッチで目前を通過した。
頭上に煙が流れ列車の後部が飛んでいく。
彼は足を滑らせながらトンネルに突入していった。
残る1号機の残り香と、列車の残影。
僕たち三人はしばらくその感動を体一杯に感じながら余韻を楽しんだ。



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山口線 津和野~船平山




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  1. 2016/12/22(木) 00:26:27|
  2. 山口線
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どうしても

お茶をご馳走になりながら楽しい談笑が続いたあと
奥さんの体調も今一つとのこともあって、列車の時間までは結構あったがお暇することにした。
もう行くのかい?の声に甘えそうになりながら、せっかく来たからちょっと散歩しながら駅に向かいますとお宅を出た。
玄関からお二人に見送られ、また来たら寄りなさいの言葉がこの上なくありがたかった。
旅の別れとはどうしてこれほどまでに切ないものなのだろう。
お元気になられるよう祈りながら駅に着くと、ちょうど単色のキハが駅を発っていった。



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国鉄時代の面影が今なお残る木造の跨線橋を渡る。
なにもなければまず乗り降りすることはないであろう駅を、一人こうして歩く行為は僕にとって旅をより深いものへと変えてくれるようだ。
ホームの先から列車が去っていった方角を見ると、素朴で優しい風景が見送ってくれた。



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山口線 徳佐駅にて



翌朝、旅のもうひとつの目的である再会の相手のシゴナナの1号機。
どこで彼を迎えようかとレンタカーを走らせる。
有名な大山路も視野に入れ直前まで悩んだ末、逆篠と呼ばれる撮影地に向かった。
車では初めての土地であったが、ナビを使うことは古いバイク乗りのつまらない拘りから勘に頼っての走行をするものの
要は線路沿いに出ればいいだけなので、さして苦労なく辿り着くことができた。

深く細い山道と平行に走る線路。
山口線に蒸気機関車が復活してから様々な物語が多くのファンによって撮られてきた。
長らくそれらの秀逸な写真や映像を見てきた僕も、下手ながらもやっとのことでその一員に加われると思うと
高鳴る胸の鼓動を抑えることができなかった。
生憎常連と思しき先客がいて迎えたいポジションは確保できなかったが、
初参者の自分を快く迎え入れてくれ、和気あいあいとした和やかなムードの中で過ごさせて頂いた。

そろそろという頃、皆が耳を澄ましだす。
サミットの向こうに立ち上がるであろう煙を凝視する。
蒸気機関車ならではのこの緊張感がたまらない。
前夜から降っていた雨により、晩秋の峠路をしっとりと風情ある景色に変えてくれていた天気は
シゴナナが来る直前になって光が差し始め、目まぐるしく色が変わる。

露出に頭を悩まされながら、間もなく真っ直ぐに立ち上がる白煙が見えた。
巨大な動輪を持つ急客機ならではのゆっくりしたドラフトを響かせ急坂を登ってきたC57の1号機。
その勇姿はただただひたすらにかっこよく、全身ありとあらゆる関節の音がするほど震えっぱなしだった。


どうしてもね、君に会いたかったんだよ。



PB192971-10(3)fc

山口線 仁保~篠目




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  1. 2016/12/21(水) 22:12:05|
  2. 山口線
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徳佐へ

ある人に、どうしても会いたくて
ある彼に、どうしても会いたくて

僕は萩・石見空港に降り立った。


あの日、道で挨拶を交わした縁からお世話になったご夫婦。
玄関先でにこやかに仲良く手を繋いだお二人と蒸気機関車の写真を手渡したくて
いい旅しなさいよと見送ってくれたホームを逆に歩き駅を出た。




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2016年11月18日 山口線 徳佐駅


はたして覚えているだろうか、ご自宅にいるのだろうか…。
そんな不安を募らせながら歩く先に、近所の人と話しながら庭の手入れをされているご主人の姿が目に入った。

こんにちは。
そう挨拶した僕の顔をじっと見ながら
あれ、どこかで見た顔がまた来たね、と笑顔で迎えてくれた。

覚えていてくれたんだ、と笑って持ってきた写真を差し出す。
これをわざわざ?との問いに、僕は少し照れ臭くなりながらそうだと答えた。
もちろん蒸気機関車の撮影も目的のひとつであったが、主目的はむしろこっちというのは本音だった。

あの日と同じようにお茶を飲んでけと誘われた。
ただ、奥さんが昨年ご病気で入院され、退院した現在も体調が今一つ優れないとの話に迷惑ではと遠慮したが
懐かしい顔の人が来たと優しく迎え入れてくれ、机に広げた僕の下手な写真を見ながら
徳佐の町の様子を話してくれたこと、下駄を借りて界隈を散歩に連れ出してくれたことなどあの日のことをつぶてに話すお二人に
ああ、来てよかったと思わずにはいられなかった。



PA264433-1fc.jpg

2014年10月 徳佐界隈散歩途中にて




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  1. 2016/12/15(木) 02:02:04|
  2. 山口線
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プロフィール

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Author:u403tsugaru
下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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