笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

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秩父鉄道 浦山口~影森    2013年12月撮影


この年、秩父鉄道において1988年の蒸気機関車運行を開始して以来初となる冬季運転が実現した。
クリスマス時期と正月三が日の限られた日程だったが、ちょうど東京勤務だったこともあり、
またとないクリスマスプレゼントとお年玉になった。

わがままなファン心理からすれば、なぜもっと早い内からそれをやってくれなかったかと愚痴っても
顔はニヤけ心はワクワクしていた。

終点三峰口を折り返す上り列車の見せ場は影森登りと称される区間と思う。
急カーブと勾配が続く上り列車最大の難所だけに人も多く、初の冬季運転とあれば混雑ぶりも予想され
あまりに人が多い場所は苦手な僕は毎度のことのようにそこに立つことをためらった。

そこで、よく訪れていた少し三峰口寄りの陸橋に
「いつもの場所っていうのも変化ないよなぁ」
と思いながら立ち寄ると、僕の知らなかった風景がそこにあり、なにか呼び止められたような気がした。

冬の低く柔らかい斜光線。
その光に照らされた線路のある風景を見ていると、走る車の音でさえのどかな心地よいものに聞こえてくる。

微睡むような景色の中、木立の向こうに浦山口駅の手前からピッチを上げた汽車がやって来た。
山影に一旦消えた息遣い。
カーブを飛び出し再びその音が轟くと、眼下に見事なまでの白煙と冬の光の共演が広がった。
迫力よりもうっとりするような光景に見惚れながら振り返り、
裾から沸き立つ霧の如く舞い上がった残り香を、思い切り深く吸い込んだ。




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  1. 2017/03/23(木) 00:11:34|
  2. 秩父鉄道
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若草香る秩父路に

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秩父鉄道 和銅黒谷~武州原谷(貨)    2013年4月撮影


春である。
蒸気煙中毒者にとってシーズン到来、煙春である。
18日から秩父鉄道や肥薩線、19日から山口線でと各地で2017年の蒸気運行が始まった。

今年は冬の湿原号牽引機のC11が思わぬことで運行中止となり、全くの不完全燃焼で終わってしまった。
欲求不満のまま各地のシーズン到来に、羨ましくて身体が震える思いというのが正直な気持ちだ。


数年前、仕事の都合で東京にいた際に、職場があった浦和から夜勤明けのまま秩父鉄道へと向かったりしたものだった。
今も大して変わり映えしないが、大好きな蒸気機関車をただ闇雲にシャッターを切るだけで幸せな気分だった。

若草が香る少し汗ばむくらいの線路端。
撮影場所を探してウロウロしていると、ご近所さんからの帰りだといういかにも田舎のおばちゃんといった体の方に声を掛けられた。
秩父は黒谷で生まれ育ち、川で遊んだこと、時代と共に移り変わる沿線のこと、子供や孫たちのこと…
様々な話に時間も経つのを忘れて聞いていた。

あら、邪魔してごめんなさい。SLが来ちゃうわね。

そう言って立ち去ろうとされた時、何時に来るのかと尋ねられ答えると
私も久しぶりに見ていこうかしらと結局撮影場所はそこになってしまった。

汽笛がポーっといい感じで聞こえ、もうそれだけで満足感が湧いてくる。
ドレンを切って和銅黒谷の構内を抜け、勾配への助走とはいえ秩父にしては珍しく煙を吐いてやって来る。

わぁ、すごいすごい!

まるで子供に返ったかのようなおばちゃんの声。
おっさんとおばちゃん二人に手を振られ、少しニヤッとしたかのようなC58がポッと応えてくれた。
幾つになっても汽車が来て、機関士さんや乗客と笑顔で手を振り合うことはどこか嬉しい気持ちにさせられる。

おばちゃんは大満足だったらしく、また汽車が来たら見送ってあげようと満面の笑みだった。
せっかく写真撮りに来たのにほんとにごめんなさいねと謝っておられたが
僕には春のように、とてもほのぼのと和ませて頂いた時間として今も心に残っている。




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  1. 2017/03/20(月) 13:29:12|
  2. 秩父鉄道
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またね

今日の務めを終え、塒のある車両基地へと帰って来たC58。
気温35℃の猛暑日となった秩父路は機関車乗務員にとっても厳しい行路だったことだろう。
陽が傾き始めたとはいえ、まだまだじっとしているだけでも汗が流れベタつく暑さが続いていたが
一日の運行を無事に終えた彼の表情はどこかホッとしているように見えた。

昭和63年からこの地を走り続けて29年。
今や地元ではすっかり普段の光景となって見物する人もなく、広い構内に一人佇む飾り気のない姿は自然であった。

一休み終えたのだろうか機関士さんが彼に近付く。
これから転車台で向きを変え、庫に戻って整備を受け次の運行に備える。

「またね」

揺れる陽炎の中に小さくなっていった彼にありがとうの意を込めて、僕はしばしの別れを告げた。



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秩父鉄道 広瀬川原車両基地

OLYMPUS OM-D E-M1
ZUIKO DIGITAL ED50-200mm SWD F2.8-3.5 + Teleconverter EC-14




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  1. 2016/08/11(木) 22:18:09|
  2. 秩父鉄道
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笛の音響けば

秩父鉄道の汽車は「都心から一番近い蒸気機関車」であるが
波久礼辺りから山に囲まれはじめ、秩父・影森を過ぎればいよいよ山も迫る山岳路線になる。
ただ、その割には意外と民家が多く、煙も多いとは言えない。
煙だけを求めた撮影行ならばなかなか厳しい路線ではないだろうか。
それでも古い民家や、また新しい家でもこの地方の風景に違和感のないものも多く、それらから漂う生活感が僕は好きである。

一旦山に入れば細くきつい勾配と曲がりくねった道が続く。
谷は深く、岩は苔生し、湿気のあるひんやりとした空気が身を包む。
若い頃、汽車なんぞそっちのけで何度バイクで山に入り込んだだろう。
山を下り、再び里に出てくる。
と、そこには里で暮らす人々の暮らしの匂いがして、その瞬間は、山でバイクで走るという行為とは別の楽しみのひとつだったように思う。

人は、都会のような街では人ゴミであっても、適度な里の集落ではこれほどいい匂いがするものはない。
そんないい匂いのする里の秩父路に汽車が走れば、たちまち郷愁という名の旅路に連れて行ってくれる。
谷を越え、緑に包まれた山里。
そこに今日もポーッと汽車の笛の音が木霊する。
音色は途端に身体中の細胞ひとつひとつに染みわたり、ブルブルと細かく震え出す。
その瞬間と汽車が見せてくれる光景が大好きで、未だに冷静でいられたことがない。
汽車が来て過ぎ去るまで、短いようで長いような、でもやっぱり短いような夢の中の旅路。
そこから下車した後、僕はしばらくその場から動くことを忘れていた。



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秩父鉄道 武州中川~浦山口

OLYMPUS OM-D E-M1
M.ZUIKO DIGITAL ED12-40mm F2.8PRO




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  1. 2016/08/02(火) 01:44:36|
  2. 秩父鉄道
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君の行く路は

街を出て田畑を抜けて汽車は往く。
花に送られ、森に送られ
荒川を渡れば多くの人も手を振る秩父の汽車。

坂を上っては下りを繰り返し、曲がりくねった路に足を軋ませて
驕ることなく走って来た。
黙々と、ただ黙々と。

ダン・ダダダ・ダ・ダダンダダン・・・
複雑なジョイント音が地響きを立てて目前を通過する。
やかましいほどの蝉時雨も陽炎に揺れる焼けた路を今日も行く。
決して楽な道程ではなかったはずのこの路は、この先も決して楽ではないだろう。
それでも、カマを燃えたぎらせ往く様をいつまでも見ていたい。
終着三峰の停車場はあと少し。

がんばれ!

思わず胸の中で叫んで見送った。



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秩父鉄道 武州日野駅

OLYMPUS OM-D E-M1
ZUIKO DIGITAL ED50-200mm SWD F2.8-3.5




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  1. 2016/07/30(土) 17:12:52|
  2. 秩父鉄道
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プロフィール

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Author:u403tsugaru
下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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