笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

別れ

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釧網本線 細岡


氷の塊となった雪と融けてぬかるんだ山の足元を、汽車は笛を吹きながら現れた。
まるで僕がここにいることを知っていたかのように大きな声で別れを言う。
思いもしなかった彼の行動に虚を衝かれ、一瞬遅れて去っていく姿に手を振った。
最後はここでと決めていた時が遂に来た。



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釧網本線 細岡~釧路湿原


木々の間を惰行する釧路川。
川面に空の色が映り込む。
人家乏しいひたすら広がる大自然。
その淵をぐるりと描くように流れる最後の煙は別れのシーンそのものだった。

プラットホームのベルが鳴る。
ポーッと発する汽車の声。
「元気で」
「さようなら」
見送り、見送られる双方の距離がだんだん遠くなる。
堪らず汽車の窓から身を乗り出して、おーい、おーいと手を振る去り往く者のように白煙がいつまでもなびいていた。


2月4日を皮切りに湿原に通った14日間。
月の半分を費やした割にはこれといったものはなく、打率の低さが目立っただけだった。
自分の技量からしてこんなものだろう。
こうすれば良かったと尽きぬ後悔ばかりとはいえ、それでも当初の目的通り、可能な限り汽車を眼に胸に刻めたように思う。
実はシーズン中頃、山を下りる途中にコケて使用しているカメラの背面液晶を壊してしまった。
幸い撮影することは出来たので一先ず修理は出さず、無事に運行最終日まで持ってくれた。

汽車はまた新たな出会いも与えてくれた。
前回も少し触れたが、ここを通じて知り合ったひぐま3号さん、マイオさん、ネコさんのお三方とご挨拶させて頂く機会を得、
鉄とは無縁と思っていた友人の思いもよらぬ蒸機への反応もそのひとつである。
この日の午前中も家族で蒸気を堪能したとの報を受け喜ばしい限りだ。
だが、現在JR北海道の抱える状況下で最終日を迎えるというのは一層の不安と寂しさが込み上げた。
今は来年以降の蒸気運行と路線存続を信じるばかりだが、あまりの脱力感にしばらく湿原から離れることが出来ないでいた。




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  1. 2018/03/14(水) 04:15:08|
  2. 釧網本線
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募る寂しさ

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釧網本線 茅沼~標茶


汽車が走るのも今日が最後と夜勤明けで仕事着のまま現地へ向かう。
凍結路面にあれほど恐々と越えた美幌峠はまだまだ冬景色とはいえ、路面の雪もすっかり融けて、
約一月という時間の歩みを感じさせられた。
通い慣れた感のある道も風景も、しばらく来ることはないだろうと少しばかり感傷的な気分になりながらの道中だ。

最後の往路はどこで迎えよう…
時間的にいって塘路以北が妥当かと旧五十石駅に行ってみる。
既に先客一人、どうせここは後から追っかけ組も加わり騒がしくなることだろう。
最後は一人でじっくり見送りたい。
雪も大分融けたことだし、ならば以前バイクで走った砂利道からはどうだと記憶を辿る。
もしかしたらと思っていた、このブログを通じて知り合ったひぐま3号さんを始めとする諸先輩方が撮影されたと思しき山。
そこがすっかり馴染みとなり多くの作品を発表された場所ならばともかく、他に見たことがないものであれば
それまでここは諸先輩たちだけの聖地のようなものだ。
場所を探すのにどれほどの苦労があったかと思えば易々と二番煎じをするわけにはいかない…と、
少し向きを変えて汽車を待つことにした。

明るい日差しと冷たく吹き付ける西風に、ざらめ状になった雪が崩れる音がする。
春と冬とか混同する風景に茅沼発車の煙が時にのたうちながら舞い上がった。

さあ、折り返しまであと一息だ。

風と共にやって来るドラフト音がドキドキと早くなる胸の鼓動と共鳴する。
こんな気持ちになれるのも残すところあと一本。
銀屏風を背景に、姿を浮かび上がらせながら進み往く汽車を独り占めしながら寂しさが募る思いだった。




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  1. 2018/03/11(日) 00:35:47|
  2. 釧網本線
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別れの季節



釧網本線 細岡~釧路湿原


もう春の雪だなぁ…
後から丘を登って来た地元の釧路だという方が緩み始めた雪に呟いた。

内地では梅や河津桜が咲いたと便りも届く。
北国ではまだ冬の景色とはいえ、耳奥で聞こえる金属音もしなければ青い氷のような風の匂いもなく
もはや厳冬期のそれではない。
春が近づくことはありがたいが、それは同時に湿原の汽車との別れが近いことを意味する。

塘路で汽車と交換する普通列車が下って行く頃は辛うじて日が差していた空も間もなく薄い雲に覆われた。
吹く風は冷たくも出がらしのような白っぽい春へと移る季節に吹く風だ。
その風の吹く向こうの山の麓から汽車のライトがチラリと見えた。
木々の合間に時々見える汽車をしっかり目に焼き付けながら追いかける。
大きく弧を描くように軽くバンクさせ、足取りは軽やかだったが
それがどこか寂しさをひた隠しているように見えたのは、クライマックスも近しと操る機関士さんの気持ちの表れか
それとも撮影する僕らの哀愁じみた気持ちによるものだけだったのだろうか。




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  1. 2018/03/10(土) 01:41:09|
  2. 釧網本線
  3. | コメント:0

躍動

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釧網本線 細岡


昨季は思わぬことから道半ばで中止となった冬の運行。
今季はその憂さを晴らすかのように冬の行路をひた走る。

残る運行日数もあと僅か。
その勇姿を見てくれと言わんばかりに力一杯煙を上げてやって来た。
湿原の片隅にそっと佇む小さな駅にドレンの音が鋭く響き
眩い鉄路に黒い身体が躍動する。

走れ!!

ゴールを目指しスパートをかけるランナーに送る声援の如く
僕は胸の中で拳を突き上げ、駆け抜ける彼を見つめていた。




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  1. 2018/03/08(木) 16:09:57|
  2. 釧網本線
  3. | コメント:0

命の美

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釧網本線 塘路~茅沼


今年は全国的にも寒い冬だったようで北海道も例外ではなかった。
例年だと2月も半ばを過ぎると寒さも緩んで来るが、2月の北見市内の最低気温は-20℃以下となった日が13日もあった。
大概-20℃以下が2~3日続いたにしてもその前後は-15℃辺りに緩むのだが、先月は-17℃以下の日を数えると22日あり、
それが11日間連続で記録している。
我が家でも-25℃以下を三日、1月末にも-28℃まで下がり大変厳しい冬となった。

そんな寒い年にあっても自然のサイクルというのは不思議なもので、日にちを重ねるごとに山の様子が変わってきた。
黒々とした木々がなんとなく赤っぽい…どうやら芽が膨らんできたようだ。
弱々しかった日差しは明らかに力強さを増してきたとはいえ、気温が気温だけに「まだまだ冬」だと思わされる一方で
こうして変化が現れると一歩ずつ季節は進んでいるんだなぁと春への夢を見る。
雪と氷に覆われた大地に一人ポツンと身を置くと、時にこんな些細な自然の営みに嬉しさを覚えれば、
時に圧倒的な自然の前では人など束になっても敵う相手ではなく、与えられた中で生かされているのだとも実感する。
自然は素晴らしく、恐ろしく、そしてとてつもなく大きい。

間近なら見上げるような黒い鉄の塊であってもここでは小さな存在でしかない。
けれども、阿寒富士と雌阿寒岳が肩を並べて浮かぶ壮大な景色に煙を上げて貫く汽車の姿は
立ちはだかる自然に逞しく生きようとする命の美しさがあった。




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  1. 2018/03/05(月) 15:55:08|
  2. 釧網本線
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プロフィール

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Author:u403tsugaru
下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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