笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

桜と古豪

3月下旬ともなると、関東以西では桜の便りがチラホラ届く季節となる。
その頃の北海道ではまだ雪の中で桜の気配なんてこれっぽっちもなく、テレビを見ては羨ましく思えるものだ。
雪融けが進むとはいえ、おかげで道路は泥に淀んだ水たまりだらけで車を洗車するなど全くの無駄と思えるほど酷い有様となる。
おまけにこの季節は風の強い日が多く、来そうでなかなか来ない春にじれったく、僕にとって一番嫌いな季節でもある。

今年のゴールデンウイーク前半、道内の空模様は大荒れで鯉のぼりが吹雪の中を寒そうに泳いでいた。
5月中旬でも雪となる土地柄、今さら驚くことはないとはいえ、春を待ち望んでいた身にはいささかウンザリといったところか。
春と冬が交互にやって来てはを繰り返し、東京の開花日から約1ヶ月半という時間を経てようやくオホーツク地方に桜が咲いた。

桜とローカル線といえば個人的に「駅」…を思わせる。
少年時代の頃はまだ小駅とはいえ駅員が配置され、町や村の玄関口である駅舎の周りやホームには手入れされた花壇や桜の木があり人々を出迎えていた、そんな印象からだ。
そんな駅と桜とローカル列車の光景を見たくて久しぶりに出かけてみたもののオホーツク地方にはソメイヨシノはなく、神社やお寺、学校や公園などにはエゾヤマザクラという桜が咲いていても、こと駅に関してはどうにも記憶がない。
桜以外にも道内の、路線が少ない地域では内地ほど身近ではないのか、比較的鉄道を見る目はどうも少し違うように感じているのだが、少なくともオホーツク管内で満開の桜が駅やホームを彩り人々を迎えるといった光景は見た記憶がない。

北見から網走方面へと移動する。
途中区間にポッツラポッツラ桜の木はあるものの、やはり駅舎を飾るような桜はなく一駅また一駅と進んでふと思い出した。
網走より一つ北見寄りの呼人駅。
駅舎を飾る桜はないが、ここには構内の外れに神社がある。
神社には間違いなく桜があるはずと訪れてみれば、ちょうど満開のエゾヤマザクラが迎えてくれた。
まるで京の都の品のあるような淡いピンクの花が可憐に咲くソメイヨシノとは違い、濃い目の色のエゾヤマザクラは芽吹いたばかりの赤い若葉と共に咲き、可憐さというよりはヤマザクラというだけあってどこか逞しさがあるように感じる。

つい先日まで雪があった風景は、桜の開花を前後に一気に芽吹き色付いた風景へと変わる。
あと2~3年で新型車輛に置き換えられるといわれる旧国鉄時代の古豪。
幾年も四季を走り、人を乗せ、町を、生活を繋いできた彼にはその歴史の重さと尊さがある。
決して最新型車輛には出せない年輪がある。
やはり桜には、そんな彼の姿がよく似合うと心底思えた春の一日だった。



P5100153-20fc.jpg

石北本線 呼人

OLYMPUS E-5
ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5Ⅱ




  1. 2016/05/12(木) 06:50:44|
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