笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

旧友と再会した日

初めて大井川鐡道を訪れたのは高校生の頃だったか。
夏に家族旅行で千頭に一泊した時に初めて線路際に立ったように思う。
当時、初めて一眼レフを買うにあたりニコンにするかオリンパスにするか散々迷い、結局ニコンFMを購入し、ドキドキしながら蒸気機関車を待っていた記憶だけは鮮明に覚えている。

現役蒸気が国鉄線上から姿を消したのは1975年だが(追分の9600は除く)、最末期しか知らない僕が最後に見たのは1972年の鉄道100年記念で東海道本線に運転されたC577。
その後1979年に山口線でC571とC581が復活となり、その年の秋には山口に行っているがその時は完全に乗り鉄だった。
勿論久しぶりの煙と汽笛に酔いしれシゴナナの快足ぶりに感激したが、蒸気撮影という名目で線路際に立ったのは大井川が最初であり、この時の高揚感といったら山口のそれとはまた別のものだった。

緑濃き山と茶畑が広がる抜里の里。
背後に控えていた大井川第一橋梁を嫌ったのは、やっぱり有名地故の人の多さというのが理由である。
やがて汽笛が山々に木霊した。
その汽笛に「あれ?おかしいな」と思ったのは木霊のせいだったか…、そう思いながら現れた蒸気機関車はなんと重連だった。
重連なんて現役時代のおぼろげながらのものしか記憶になかったばかりか、ダイヤや重連の情報など全く知る術も持っていなかったからその偶然に全身が震えた。
先頭はタイから里帰りし日本型に復活したばかりのC5644。
初の大井川でお袋の故郷である信州飯山線で何度か見た同形式というのにも何かの縁を感じた。
次位にC11227を従え、この日の主役は少しはにかんでいるようだった。

この時の感動と大井川の河川敷の広さ、昭和時代のような懐かしく長閑な風景に魅せられこの地を何度となく訪れるようになった。
しばらく写真というものから遠ざかっていた時期もバイクで旅をし、新緑の季節は野宿をしに行くのが毎年の恒例となった。
北海道に住みはじめてからも新緑の季節になると大井川を思い出す。
そんな思いから十数年ぶりに訪れた大井川。
神尾、福用、大和田…。
家山、抜里、笹間渡、地名…。 
どこも絵になる美しい風景があり、さてどこにするかと悩んで田野口に腰を下ろすことにした。
勾配に向かうため姿見えずとも駅手前から助走するドラフトが勇ましく、なんともドキドキする場所である。
山も畑も全て緑一色となった田野口の里。
製茶工場からは新茶の香り、人の姿を見なくとも活気を感じる。

駅前の名物の桜も青々と、その向こうから期待していた通りの音が聞こえてきた。
歯切れるドラフト、切り裂くドレン。
汽笛が泣かせるほどに木霊する。
その主役は初めて訪れた時のC5644だった。
あの時とは少し違い、彼はすっかりこの地に馴染んだ自信ありげな表情で
「よ、久しぶり!」
と、小気味よい足取りで目の前を駆け抜けた。



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大井川鐡道 田野口~駿河徳山 2014年6月撮影

OLMPUS E-5
ZUIKO DIGITAL ED50-200mmF2.8-3.5 SWD




  1. 2016/06/01(水) 00:01:50|
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