笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

駅に漂う

駅という場所が好きである。
長距離列車が発着する大駅であれ、人家乏しい小駅であれ、そこに列車が停まる空間が好きなのだ。
たとえ列車に通過されようが乗降客がいなかろうが、駅間のものとどこか違う匂いが漂っているように思う。
期待を胸に旅に向かう者、大切な人たちと別れを惜しむ者、会社や学校へ、買い物へ、故郷へ…
様々な想いを乗せた列車は途中途中でそれぞれの物語を乗せて走っていく。

朝の気忙しい時が過ぎ、のどかに流れるお昼前。
少し汗ばむ日差しが降り注ぎ、緑を揺らす風が心地いい。
その風に、峠を越え軽やかな足取りで里に下る列車の音が辺りに届く。
到着を小さな駅の片隅で待っていた。
こんな駅でも人の行き来があり、地元の方たちの手によって駅前はいつもきれいに手入れされている。
ふと、ある夏の旅を思い出していた。

列車の接近を知らせる警報音。
ホームの先を眺むれば、陽炎に揺れた列車がやって来る。
右に左に体をくねらせ、シューッとブレーキの擦れる音。
ポイントを渡ると静かに停車した。
しばし走る・・・というどこか気忙しさから解き放たれた休息の時間。
束の間といえど、そこに流れる時間はのどかで平穏で。
目一杯開かれた窓からは、暑苦しい蝉の鳴き声と花揺らす涼しげな風が流れているだろう。
きんちゃく袋を下げた婆ちゃんが列車に向かう。
曲がった腰を伸ばし駅長とにこやかに話した婆ちゃんは、一度振り返り会釈して乗って行った。

ある日旅に出た、夏のなんてことのない物語。
でも、そんな物語だからこそふと気付かされる。
鉄道が支える人の暮らしの物語。
どんなに道路が整備されようと、どんなに便利な時代になろうと他では決して見ることの出来ない物語。
多少不便であろうと無駄があろうと、鉄道が結んできた人の繋がり、人の暮らし。

手入れされ、花が咲き誇る小さな駅には無人駅となった今でもそこに人の営み、物語が見えてくる。
そんな匂いが漂う駅に今日も列車が静かに停車した。



P6162237-1-10fc.jpg

石北本線 緋牛内駅

OLYMPUS OM-D E-M1
M.ZUIKO DIGITAL ED12-40mm F2.8 PRO




  1. 2016/06/16(木) 22:15:10|
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下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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