笛の音響けば

汽車の音色は旅へと誘う道標

象徴の影に

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宗谷本線 音威子府


若かりし頃、東京での職場である管理責任者が転勤して来た時のこと…。
東京ドームでプロ野球観戦や、昼飯にもよく連れて行ってくれたべらんめぇ口調の、公私ともに大変お世話になった方がいた。
ある日休憩中にその上司がやって来て、そこに職場に届けられた荷物の片隅にあった音威子府という文字を指し
「おい、おめぇこれなんて読むか知ってるか?」と聞く。
「おといねっぷがどうかしましたか?」というと
「なんだ知ってたのか、面白くねぇ」と笑いながら出て行った。
上司からすれば、なんだ読めねぇのかとからかうつもりだったのだろうが
まさか僕が子供時分から音威子府に凍てついたキューロクやC55の写真を見て知っていたとは知る由もなかったろう。

その音威子府の写真には、旭川から厳しい北の寒風を突き抜けて全身凍らせたC55が客車から切り離され
少し先で給水を受けている写真だった。
ホームでは「NHK推奨」「日本一」などと書かれた暖簾が下がる立ち食いそば屋に旅人が群がる。
そば屋からも、ホームでそばをすする人々や丼からも白い息や湯気が立ち込め、
その先で整備を受けるC55からも全身蒸気に覆われ、それはまさしく活気ある駅の光景だった。

そのそば屋さんはホームから駅舎の中に移転して現在でも老夫婦のお二人が切り盛りしている。
ちょうどお昼時だったこともあり、意外なほど後から次々とお客さんがやって来ていた。

かつては天北線や羽幌線の連絡駅でもあり鉄道の要所であった音威子府。
両線が廃線になってから久しく経つ。
今では構内の線路もかなり撤去され、当時のような活気は微塵にも感じられなくなってしまったが
それでも広い構内と立派な木造の跨線橋は健在だ。
跨線橋の木目には、在りし日のC55やキューロクたちの息吹きが染み込まれているだろう。
この駅の象徴でもあるかのような、重厚且つ威風堂々とした跨線橋に敬意を示すように特急サロベツ4号が静々と入線する。
往時より寂しくなったとはいえ、見ていて楽しくなるような駅構内を秋の短い日差しが長い影を作り
僕の頭の中で蒸気たちの鼓動と今見ている光景が重なった…。




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  1. 2017/10/03(火) 17:40:07|
  2. 宗谷本線
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秋の名寄地方で

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宗谷本線 北星~日進


宗谷本線を北上し、名寄を過ぎると辺りの雰囲気が変わってくる。
さほど大きくなくてもポツポツ続いていたそれまでの街は更に小さな規模となって街との間隔も広がる。
列車本数もぐっと減り、畑はあっても人の気配が感じられない。
旭川郊外から続いていた田園風景もそろそろ北限に迫ると、蕎麦や牧草地、更には熊笹の茂る原野へと移り
否が応でも最果て感が強くなる。
標高の低い山並みであっても一歩踏み込めば森は深く、人間社会が入り込む余地はない。
人が暮らす里と自然の境界線を往くのが宗谷本線というのが僕の印象だ。

オホーツク海側の雄武町と名寄の境に位置するピヤシリ山という山がある。
鬱蒼とした雄武側と打って変わり、名寄側は開放的な明るさのある爽快な眺めが目に染み入るように飛び込んでくる。
道を下れば山奥にいた緊張感は解け、人の暮らす匂いに毎度のようにホッとする。
駅は乗降場といっても差し支えない簡素なものでも時間になればきちんと列車がやって来る…そんな当たり前の風景が何故だか嬉しい。

黄金色の絨毯の傍らで、エンマコオロギやキリギリスといった内地でよく聞かれる秋の虫が数多く鳴く。
どことなく北東北に似ている風景に、窓の外に稲穂が望める線路沿いの小さな家。
外壁はリフォームされているものの北海道でよく見られる古い型の家だ。
この好ましい家の存在のおかげで北海道であることを意識することが出来るが、北海道的でありながら内地的…と
名寄地方に感じるのはこんな景色のせいかな…なんて思いながら、駅に静かに進入する列車を迎えた。




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  1. 2017/09/30(土) 14:55:42|
  2. 宗谷本線
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束の間の季節

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宗谷本線 東六線~和寒


いつだか泊まった地元の人たちで賑わう少し高台にあった古びた温泉宿。
翌朝、部屋から眺めた名寄盆地は一面朝日に輝く黄金色の風景が眼下に広がっていた。
その時から毎年この季節になると何かに誘われるように道北方面に足が向く。
タマネギやジャガイモ畑が続くオホーツク地方とは異なり、田園地帯が広がる名寄地方の風景は
どこか内地的で、でもやはり北海道らしく、その趣きは道北ならではの独特な匂いが漂っているように思える。

早くも雪虫がチラチラ舞い始めた季節。
そろそろ刈り取られる前にとまだ日も明けやらぬ早朝に家を出る。
黄色く色付きだした山に朝日が眩しかった北見国と石狩国への峠を境に風が強くなりだした。
寒気が入り、大気の状態が不安定になった前日の影響は朝になっても続いているようで晴れては曇りを繰り返す。
風は冷たく、もう少し着て来ればよかったな…と辺りを見れば
自転車で通学する学生たちもみな一枚羽織っていた光景に、遠くで冬の気配を感じた。

同じ北海道でも、オホーツク地方と比べて道北地方の冬は早い。
10月も半ばになれば峠は雪が降ってもおかしくない、もうそんな季節だ。
これから稲刈りは一気に加速し風景は一変するだろう。
そんな束の間の豊穣の景色を見ながら、名寄5時50分発の一番列車が冷たい風を切ってやって来た。




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  1. 2017/09/27(水) 17:00:16|
  2. 宗谷本線
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愛らしく、美しく…

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真岡鐡道 益子~七井    2014年8月撮影


中学1~2年の頃、家の本棚に少年朝日年鑑という雑誌が並んでいた。
恐らく社会の勉強のためにと父親が買っておいてくれたのだろうその本は全く僕の興味に触れず、ほとんど新品の状態でそこにあった。
何気に手に取りページをめくっていると、蒸気現役時代の日豊本線と高森線の特集が目に飛び込んできた。
黄昏時に煙を薄く棚引かせシルエットとなった門デフのC57が日向杉を眼下に鉄橋を駆け抜ける…
菜の花畑を前景に草深い貧弱な線路をC12が短い客車を従え健気に走る…。

中でも大量のススキが両脇に茂る線路や古びた駅舎、
雄大な阿蘇にあって且つ素朴な高森線の四季の風景をコトコト走るC12の姿は僕の琴線に触れ、
それまで絶対的な存在だったD51やC58が一気に吹き飛んだ。

「高森線を往くC12は愛らしく美しかった」

そう締めくくられた特集は未だ心に響くほどのものであった。
ちょうどその頃「一枚のきっぷから」という国鉄のCMが流れていて、それは確か夕景のシーンがあったように思う。
旅に出たくなるようなCMにシルエットの門デフC57と高森線のC12が妙に重なり、しばらく両機に夢中になっていた。

そんなことからC12はいつも心のどこかに存在する機関車だった。
あれから数十年、その時の一形式であるC12が今を走る。
阿蘇のような雄大さはないにしろ、北関東のなんの変哲もない素朴な田舎路線の豆機関車は
国鉄真岡線時代に元々走っていた形式とはいえ、今なお相応しいと思える。

益子発車の汽笛は青田を渡り、それは意外なほどに響いてきた。
線路端の花たちは地域の人たちの愛情か、少しでも小さな鉄道を盛り上げようとする気持ちを思うと
じんわり込み上げて来るものがあった。
素朴だけども温かい…そんな景色を小気味よくブラストを掲げて照れ臭そうに駆けて来る。
冷房がない客車の窓は開き、車内は汽車の煙と田舎の風が心地良いことだろう。
素朴だけれどそれが魅力の真岡鐡道。
北関東の田舎を走る汽車もまた、愛らしく美しかった。




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  1. 2017/09/22(金) 00:57:34|
  2. 真岡鐡道
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鉄道と製材所

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石北本線 美幌~緋牛内


北海道の森林面積は全道面積の70%、全国の森林面積でも約20%を占めるのだという。
かつては林業も盛んで、北見近郊でも留辺蘂、津別、置戸など貯木場に山のように原木が積まれた様子を古い写真から見ることが出来る。
しかし、林業衰退と共に製材所もその数を減らし町は寂れ、そればかりか津別や置戸は鉄道そのものが無くなってしまった。

鉄道が物流の主役だった頃は大抵の駅に荷物扱いがあったように思う。
工場へ引き込み線が延びていたり、貨物ホームがあって数輌の貨車が止まっていたり…なんて懐かしい光景だ。
製材所もその内のひとつで、丸太やチップを積まれた貨車などを見ているのも楽しいものだった。
林業も安い輸入材に押されて貨物輸送は鉄道からトラックに代わり、製材所と鉄道のある風景は昔と比べて大幅に見る機会が減ってしまった。
そこへいくと秩父鉄道の武州中川は駅の横に製材所があり、蒸気機関車と同時に見れる貴重な箇所だと思う。


北見から網走方面に向かって美幌の町に入る手前に小さな製材所がある。
武州中川のように駅構内に隣接するようなものではないにしろ、製材所から線路が見える風景はやはりどこか懐かしい。

道の法面にしゃがみ込み、いつしか雨も止んで青空が顔を出す。
丸太越しに軽やかに駆ける列車を眺むれば、北海道を支えた鉄道と林業の栄華を今に見ているよう…
そう見えたのは、山から切り出された木から香る優しい匂いのせいだったのかもしれない。




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  1. 2017/09/15(金) 14:38:02|
  2. 石北本線
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Author:u403tsugaru
下手な鉄道写真を撮っておりますが、沿線風景や旅先での一コマなども載せていこうと思います。
見て下さった方の一人でも郷愁感や旅への思いをお持ち下されば嬉しく思います。

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